【『砦の上に』紹介】
今回は、鹿児島の出版社「南方新社」社長、向原祥隆さんがこの春に出した本の紹介です。
東京暮らしに嫌気がさして帰郷し、釣りと畑で楽しく暮らせるけどさすがに何かやらねばね、と出版社を開業して30年。本って9割方が東京から出版されているらしく、地方の出版社は自然、コスト的にもかなり不利だそう。そんな鹿児島で、地元の自然と文化を送り出し続けています。「鹿児島からこんな良い本が!」と高い評価を得る南方新社だけど、そんな褒め言葉と偏見はささっと切って捨てる。地域の人が持つ(もしくは得た)知識は地域の宝で、それを世に出すのは地元に根を張る者の仕事。そういう知識を吸収できる出版業は素晴らしい、と言われると俄然羨ましくなります。
『砦の上に』は、2002年から新聞や地元紙に書いた連載記事を集めたもので、時の政治・経済・社会の動きを整理・評価・批判しつつも、常に中心にあるのが自分の暮らし。仕事をしてても暮らしを忘れない、というか、仕事と暮らしが離れていないのが向原さんの魅力です。この一貫性が、読んでいて胸がすく理由です。スカッとします。よく仕事より優先される釣りや磯での採集、米づくり野菜づくり、会社の庭の鶏の世話&鶏を狙う獣との闘い…。人間、食糧生産をせずに生きていると言えるか!という信条が根底にあります。その暮らしを脅かす原発も核のゴミも、絶対に許してはいけないのです。巻末のこの部分は暗澹とした気分にさせられますが、知事選出馬を含め原発を巡る闘いも、向原さんにとっては暮らしを営む自然な行動です。全部がすーと繋がっているんです。
向原さんはわたしが子どもの頃、5月の連休になるとやってくる父の友人たちの1人でした。わあわあ田植えをして釣りに行って、飲んで騒いで麻雀やってまた飲んでたおじさんは、実はこんなに立派な生活者だったのか。と失礼ながら驚いた。いえ、良い本をたくさん出しているし、20年前の著書『地域と出版』も面白いし、だからこそ自分の本もお願いして出してもらったのですが、改めて敬服です。
ひろんた村が目指すものの数々がそこにあります。
暮らしに手を抜かない。自然への敬意や謙虚さを見失わない。歓びや創意工夫を奪う便利さや快適さの罠にはまらない。そうやって生きてきた人と土地を壊すものは拒む。
生業と場所が違っても、同じ方向を見ている人の声を聞くと元気が出ます。
ぜひ読んでみてください。虫や動物がやたら登場する南方新社インスタグラムもおすすめです。
(歌野杳)
【デイサービスを考える】
セミが鳴き、気が付けば梅雨が明けたのでしょうか。田んぼは干上がり、もう少し雨が欲しいこの頃です。
さて、母屋は基本的に介護保険を使わない有料老人ホームですが、週三回実施しているデイサービスだけは、入浴や体操、個別介入などをすることで介護保険を使っています。心がけていることは、スタッフも含めて、みんなの気分や、困っていること、こうだったらいいな、などを聴いたり、お互いにそれを共有する場作りです。察するのは限度がありますし、本人の表出により「そうだったのか!」と知ることもあります。「聞かんば、分からん」です。
皆さんは、集団活動はお好きですか? 私は概ね、苦手です。なので、「デイで歌うのは嫌だ」という人の気持も、なんだか分かります。そうしたくもないことを、しないといけないような圧力も。一方で、集団の良さもあると思います。1人ではしない(できない)かもしれないけど、みんなでならできるとか。笑いヨガとか一人で難しそうです。年齢や好みがそれぞれの母屋のみんなが楽しんでくれることは何だろうなと。自分だったら、どんなデイサービスに行きたいかなと、考えると、やっぱり、気が進まないことはしたくないかな。
落としどころが分からなくなったので、この辺で。(松崎美和)
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